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2024.05.22

【レポート】空き家の会in京都~中編~

前回に引き続き、「空き家の会」のオフ会で、京都での空き家活用の事例を見学に行った続きのレポをしていきますね。
今度の訪問地は、前編の「霧霧(キリム)」プロジェクトから程近い、「A HAMRET(ハムレット)」というむらづくりプロジェクトです。

京都一(イチ)ファンキーな不動産屋さん

川端寛之さんは、『KAWABATA channel』を通じて、京都の不動産情報を伝えるだけでなく、その運営や不動産の仲介、リノベーションプロジェクトの企画など、多岐にわたる活動を展開しています。

過去にはさまざまな集落再生プロジェクトにも携わり、その経験を生かして「A HAMLET」を立ち上げました。このプロジェクトの目的は、住居、職場、娯楽を兼ね備えた新しいライフスタイルを提案し、人々に多様な生き方を示すことです。設計者、施工者、アーティスト、クリエイター、地域住民が連携し、新旧が交差する魅力的なコミュニティを形成しています。

初めて彼のことを知った時は、「京都一ファンキーな不動産屋さん」って、なんだかすごいな圧倒されていました。でも、実際にお会いしてみると、その陽気さや面白み、そして地域や人々に対する深い思いに触れると、「ファンキー」なんだと理解しました。彼の姿勢は、普通では進まない方向に進むことを恐れず、情熱的に語り、周囲の人々を元気にする力があります。

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『KAWABATA channel』についてはこちら

「A HAMRET(ハムレット)」プロジェクト

■亀岡市大井町並河エリア

線路を渡って見えてきたのは、築年数の古い長屋のような平家が立ち並ぶエリアでした。この場所だけは、まるで昭和の時代の下町にタイムスリップしたかのような雰囲気が漂っていました。

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かつて、この地域は瓦の土が豊富であり、たくさんの瓦が製造されていたそうです。案内された住宅エリアでは、家主の家の前には古い瓦の山が積まれ、新しく作られた美しい瓦も並んでいました。

実は、この日の集合場所に到着する前に、私もここを通り過ぎていましたが、何も気づいていませんでした。川端さんから、この場所のストーリーを聞いて、意識を変えるだけで、周囲の景色がどのように変化するか、その驚きを味わうことができました。

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■A HAMRET(ハムレット)の始まり

今回、川端さんが案内してくれたのは、前回の霧霧(キリム)プロジェクトから程近い、亀岡市大井町並河にある「A HAMRET(ハムレット)」というプロジェクトでした。
シェイクスピア原作の舞台「ハムレット」から言葉自体は聞き馴染みがありましたが、意味は全く知りませんでした。このまちの「A HAMLET」とは、ただの「とある集落」という意味合いでつけられたそうです。

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2020年10月、川端さんが偶然この集落を訪れ、家主さんの家のチャイムを押したことが、このプロジェクトの始まりでした。この集落には約30軒の平屋が立ち並び、昔ながらの雰囲気が漂っていましたが、時代の流れに取り残されたような感じがしました。当時、約30軒の平屋のうち、13軒が空き家となっていたそうです。

一部の物件は修理されていましたが、手間をかけずに済むように、建物の外壁にはメンテナンスフリーの素材を上貼りし、内装には安価なクロスやフェイクのフローリングが使用されていました。また、管理の手間を省くために、まちの木や植栽が伐採され、舗装されていない地面にはコンクリートが打たれていました。

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■「A HAMRET(ハムレット)」プロジェクトのメンバー集め

川端さんは、このプロジェクトについて家主さんに理解してもらうため、集落の価値を伝え、方向性を説明しました。また、自身の経歴やこれまでの活動を紹介し、実際に現場を見せながら賛同を得ました。同時に、A HAMRETプロジェクトに参加したいというメンバーにも声をかけ、時間をかけて説得しました。その結果、家主さんを含む全員が興味を持ち、プロジェクトがスタートしました。収支計画を整え、さまざまな協力を得ながら、まちや集落の再構築を進めています。

現在、13軒の空き家のリノベーションが進行中であり、設計や施工だけでなく、アーティストやクリエイター、近隣の住民、さらにはサポーターが集まり、独自の空間が生まれつつあります。このプロジェクトの目標は、住・職・楽の新しい選択肢を提供し、生き方の多様性を拡げることです。

 

■川端さんの想い

川端さんがこの場所を再生したいと思ったきっかけは、50年前にこの場所で撮影された写真にありました。その写真には、庭の緑の中で家族が生活している様子が写っていました。

「どこの町も同じようになってしまう現代では、今のこの町の美しい風景を残すだけでなく、未来への思いを込めるだけでなく、50年前と未来を融合させたような世界観を描けないだろうか?」と、川端さんは考えたそうです。

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■2022年2月「A HAMRET(ハムレット)」スタート

「A HAMRET(ハムレット)」は、まちや集落の再構築や再定義を行うプロジェクトです。要するに、むらづくりです。

生き物としての人間の巣であり、現役だけど廃墟寄りの建物があるこの集落を、50年前のまちの空気に近づける(=まちが過ごして来た、この50年を知る事にも繋がる)、土地自体を少し自然に返す、ひと、緑、まち、建物は手がかかるという前提に立ち返ることを意識して、取り組んでいるとのことです。

 

■庭の再生からスタート

50年前の写真では、庭には草木が生い茂っていました。しかし、プロジェクトが始まる前は、草木の手入れの手間や利便性を考慮し、庭全体がコンクリートで覆われているようで、プロジェクトによってコンクリートを剥がしていきました。そして、その剥がしたコンクリートを積み重ねてベンチや焚き火台を作るなど、再利用し、人々が集まる場所へと生まれ変わりました。

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■プロジェクトメンバーの強い絆

川端さんとチームがメンバーがこの地に泊まり込み、根を下ろしながら創造したものは、彼らの情熱が息づいていました。昼夜を問わずこの地と対話し、地元の人々やプロジェクトの支持する人々と共に作り上げた作品からは、一つ一つの石や木材、そして植物が語りかけているようでした。

共に汗を流し、時に笑い、時には課題に立ち向かいながら築かれた絆が目に見えるようでした。その結果生まれたコミュニティの温かさと活力は、訪れる人々にも伝わってきました。

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■人と自然が調和する家

この作品では、生きた木が室内に植えられ、家の内外に緑が溢れています。土間に根を張り、水分を吸い上げ、天井から太陽の光が差し込むなか、半透明のトタン(ポリカーボネイド波板)の壁が外と内を完全に分けずに繋げています。こうした配置は、人と自然が調和し、精神的な豊かさを育む空間を生み出しています。

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一部の瓦を取り除き、半透明のトタン(ポリカーボネイドの波板)に置き換えることで、明るく自然光に満ちた室内が実現しています。

自然光が室内に満ち、古い建築に新しい命を吹き込んでいます。日中は電気を点けなくても明るく、エネルギー効率の良さと居心地の良い明るさが、再生された家々の居住性を高めています。

また、屋根の軽量化により地震の影響も軽減されるそう。夏は暑く、冬は寒いとのことですが、自然との共生を感じられますね。

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■自然を感じる土間

土間は、三和土(たたき)と呼ばれ、解体した土壁の土を再利用して粘土、真砂土、石灰を混ぜ合わせ、室内に運んで整形し、踏み固めて作られたそうです。

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この土間に足を踏み入れると、時間がゆっくりと流れるような静けさと、地に根ざした生活の暖かさを感じました。土の柔らかさや、自然の質感が感じられ、訪れる人々に安らぎを与えているようでした。

土間作りは、作り手が裸足で土を踏み固めることが儀式のようであり、自然との結びつきを感じる瞬間だったのではないかと思いました。

この土間は、既存の資源を最大限に活用し、循環可能でありながら集落の歴史や地域の素材を尊重し、環境にやさしい持続可能性を体現しています。また、家主さんが手入れの手間のかからない外壁をそのまま使用しているというのも興味深いですね。

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A HAMLETプロジェクトを見学してみての感想

■コミュニティの形成と再生

このプロジェクトを見学して、私が最も印象に残ったのは、過去と未来が交差し、自然と建築物が調和するその場所の独特な雰囲気でした。かつては放置されていた建物が、丁寧に手を加えられ、新しい息吹を与えられる様子は、まるで時間が逆戻りしているようでした。

それぞれの建物には、過去と現在が織り交ぜられ、新たなコミュニティの拠点としての役割を果たしていると感じられました。

プロジェクトメンバーの情熱と専門知識が随所に現れ、地域の伝統と現代のライフスタイルが融合する、新しい生活の提案に深く共感しました。地元住民と訪れる人々が自然に交流する様子は、このプロジェクトが単なるリノベーション以上のものであり、コミュニティの再生を本気で目指していることを物語っていました。

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■緑地の再生

再生された緑地は、現代では忘れがちな自然の息吹を感じさせ、人々が集う場所として心地よい空間を生み出していました。

再生された資材や自然との調和した建築デザインは、地域固有の文化を尊重しつつも、新たな価値を創造していることを強く感じました。手間をかけることで生まれる、コンクリートに覆われがちな現代のまちづくりでは見られない、温かなコミュニティがそこに形成されていました。

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■生き物のように変わり続けるであろう集落

“A HAMLET”プロジェクトは、建築物だけでなく、人間らしい温かみと時にはリアルな交流が生まれる、持続可能で人間味あふれる生活空間の再創造を目指しています。未来への希望と過去への敬意が交差する、まさに生命を宿す美術品のような場所です。

プロジェクトの持続可能性だけでなく、住民自らが変化をリードする力となり、集落は住民の手で形作られ、彼らの意志と活力で満ち溢れていきます。川端さんが目指す、人間が自然に溶け込み、常に変化し続ける集落の姿。

こうした仲間たちと共に作り上げていく場所が、今後どのように成長していくのか、ぜひその成長を見届けにまた訪れたいと思います。

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後編は、電車を乗り継ぎ、京都市内のちょっと不思議な融合をした建物へ向かいます。後編もお楽しみに!

 

▼前編はこちら

【レポート】空き家の会in京都~前編~

 

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